東京タワー・レストランに至るまで
ブログが出来てから実質第一回目の更新になりますね。
今回は新刊について触れていきます。
ただ、発売からまだ一週間経っていませんし、作品の内容や構成、つまり読者が軽くネタバレなのではと感じるような話はしないつもりです。『東京タワー・レストラン』は完成までに紆余曲折ありましたので、どういう経緯で出来たかというテーマで書いていきます。
前作、坂東蛍子三巻を書き終えた後、次の作品はどうするかという話になりました。
蛍子はそもそもの原案があって単行本を書き始めましたし、完全に白紙の状態から執筆するのははじめて、という状態。
そこで当時の私が選んだ題材は「王道冒険物」でした。
そもそも私は、児童文学小説というジャンルが好きで、そういう話を書きたいと思って筆を執っている節がありますし(この辺の話は追々)、王道な少年漫画的題材、ファンタジーやボーイミーツガールを書きたくて仕方なかった。
書き始めた小説のタイトルは「硝子星の塔を跨ぐ」。SF系ボーイミーツガールで、意識がない時は全身が硝子になってしまう少女と出会った少年ゲンマが、SF的マシンや、SF的廃品業、また地面に住んでいるモグラという商人(コイツがお気に入りだった)などとドタバタと追いかけあい、わかり合い、最終的にはラスボスみたいな奴と対峙し、皆で一緒にソイツを倒すような、そんな話でした。
まあ概要だけ抜き出すと結構面白そうなのですが、しかし実際書き上げて提出してみたら、編集さんの反応は芳しくない。それもそのはず、なにぶん話を単純化しすぎて(かつ自分の欲望のまま書きすぎて)、とくに捻りもなく戦って賑やかすだけで、商業作品として耐えうるほどの「おもしろい」の目標値には達していなかったのです。プロ感がないというか。
それに単純化しているわりには複雑なんですよね。ほら、絵本って「何一つ無駄がない」じゃないですか。本当に洗練されていないと子ども向けとしての商業耐久力は生めなくて、その点でかなり技術が必要な世界であり、私の認識の甘い小説ではその域にはなかった。
そこで私は次のプロットを書き始めました。タイトルや世界観はほぼそのままで、今度は話をより複雑で、価値のあるものにしていく作業を行います。
伏線を張って、サプライズを用意して、落としどころもよりSF的に仕上げた。
モグラはリストラし、その代わり殺し屋のシナトラとか、怪盗のスプーキーとか、派手なキャラを投入していきます(この辺もお気に入り)。
その結果どうなったかというと、今度は情報量が増えすぎてわけわからなくなっちゃったのでした。
前作の蛍子シリーズでも陥りがちだったのですが、私の作品は情報量が増えがちで、そこが課題でした。特に今回は、原案「硝子星」をベースに更に手を加えていったものだったから、もう色々な魔改造がされていて、単行本二冊くらいの情報を一冊に収めてしまった。
――まあ、一番の問題は私自身の筆運びの稚拙さにあったように思いますが。たぶん今書いたらちゃんと形にできる気はしています。ただ、当時はそれが出来なかったし、出来なかったわりに根を詰めて執筆したその時間が長すぎた。およそ一年以上の間、この作品にかかりっきりになり、それがボツに(しかも二連続ボツに)なったことで、自分の中にあった作家としてのわずかな自信が崩れ去ります。
これはもう才能が枯れたというやつなのか、と肩を落としました。
そこで私は一旦作品と距離をとることにしまして、一ヶ月だか、二ヶ月だか、ともかく筆を置いて、プロットを作り込むことに集中することにしました。
自分自身、作品を見ている距離が近くなりすぎている。猫背になって、文字と三センチくらいの距離で本を読んでしまっている。だからもっと距離をとって全体を俯瞰しながら、現状を組み立て直そうと。
「硝子星の塔を跨ぐ」に二年近くかけた以上は、練りに練ったこの世界を全て捨ててしまうのは得策ではない。うまく利用するべきだ。と同時に、この作品にいかに引きずられず、新しいものにするかも大事だった。
色々考えた末、私は物語を手中で完全にコントロールするため、箱庭を思いつく最小サイズまで縮小することにしました。小説というのは尺の関係で、だいたいひとつの箱庭(ひとつの街だったり、学校だったり)が舞台になりがちです。蛍子も夜の学校とか、ヤクザ屋敷とか、病院とか、毎回箱庭を用意して話を書いたし、その箱庭が大きいほど手こずってきた。そんな自分が、「未来の塔」なんかを箱庭にしたら、サイズが大きすぎて描ききれるはずはなかった。だからその塔の一部、たかだかワンシーンに過ぎなかった一店舗を題材にしよう。
そうして生まれたのが「東京タワー・レストラン」だったというわけです。
主人公も少年だとどうしても大冒険が始まりがちでしたので、サジタリという読者と同じ目線で思考できる大人を改めて確保し、視点を固定しました。
そのおかげで、「硝子星」とは全く違う話にはなりましたが、ようやく話が面白くまとまり、こうしてめでたく陽の目を見ることができまして。いやあ、本当に良かったです。
とまあ、ザッとですが、本作が出来るまでのお話でした。
このような紆余曲折があったので、今はとにかく世に出せたことを喜んでいる段階で、今後のことなどは考えが及んでおりません。本当はもっと本が売れるように戦略的な動きをするべきなんですけどもね。はい。
長くなりましたので、今回はここまでにしたいと思います。
ブログは毎週末更新したいと思っておりますので、宜しければまた覗きに来て下さい。
神西
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